鮎の生態
分類:原棘鰭上目キュウリウオ目アユ科アユ属
学名:Plecoglossus altivelis (Temminck & Schlegel, 1846)
英語:Ayu / Ayu sweetfish
-
硬骨魚綱ニシン目アユ科に属する魚。アイともよばれる。鮎の漢字は中国ではナマズをさす。北海道の石狩 (いしかり)川および勇払 (ゆうふつ)川以南の日本列島と朝鮮半島、中国の中・南部に分布する。台湾の河川にも生息していたが、現在では認められない。アユは、サケ類のように脂(あぶら)びれをもつことなどからかつてはサケ科に含まれていたが、口や歯の形、鱗(うろこ)の環状線が、サケ類が円いのに対し長円であるなどの差異から、独立の科となった1科1属1種の魚である。
-
語源
アユの語源は、秋の産卵期に川を下ることから「アユル」(落ちるの意)に由来するとの説や神前に供える食物であるというところから「饗(あえ)」に由来するとの説など諸説ある。
現在の「鮎」の字が当てられている由来は諸説あり、神功皇后が肥前国松浦郡の玉島川でアユを釣って戦いの勝敗を占ったとする説、アユが一定の縄張りを独占する(占める)ところからつけられた字であるというものなど諸説ある。アユという意味での漢字の鮎は奈良時代ごろから使われていたが、当時の鮎はナマズを指しており、記紀を含めほとんどがアユを年魚と表記している。 -
形態
日本の淡水魚を代表する魚で、優美な姿と独特の香気で知られ、中国では香魚(シャンユイ)といわれる。背側はオリーブ色、腹面は白色で、鰓蓋 (さいがい)の後方に黄色の鮮明な斑紋 (はんもん)(イエローマーク)がある。また、学名(種小名)altivelis(高い帆)が示すように、背びれが非常に大きい。古くから細鱗魚 (さいりんぎょ)、渓鰮 (けいうん)(谷川のイワシ)とも書かれたように、体表は細かな円鱗で覆われている。口器は独特な構造で、一名、銀口魚 (ぎんこうぎょ)ともよばれたように、銀白色の厚いくちびるには、小さい歯が18~20個密集し一つの歯になったくし状の歯が13個ついている。また、学名(属名)Plecoglossus(ひだになった舌)が示すように、舌の前のほうと側面に舌唇 (ぜっしん)とよばれるひだがある。大きさは地方によって異なり、全長15~20センチメートル。九州、四国ではよく成長し、体重が300グラム以上に達するものも珍しくはない。
-
生態
アユの産卵期は9~12月、産卵場は河川の中流域の下限付近である。孵化(ふか)した仔魚(しぎょ)はただちに海へ下る。海では主として沿岸域に分布し、プランクトンを食べて成長する。稚魚になると河口域に接近し、3~5月に遡河(そか)する。いわゆる「上(のぼ)りアユ」である。遡河したアユは河川の上・中流域の岩盤や石礫(せきれき)底の瀬や淵(ふち)にすみ、晩春から初夏にかけて急速に成長する。この時期は「若(わか)アユ」といわれる。餌(えさ)は付着性の藍藻(らんそう)、珪藻(けいそう)で、独特の構造をもった上下の両唇(りょうしん)でそぎ取って食べる。このそぎ取った跡が「食(は)み跡」で、くし状の歯の跡が明瞭 (めいりょう)に認められる。
秋になって成熟すると、出水のたびに降河する「下 (くだ)りアユ」となり、産卵水域に達すると産卵場に集合する。産卵場は瀬にできるので、産卵場に群れるアユは「瀬付きアユ」とよばれる。産卵後の親魚は「錆 (さび)アユ」とよばれ、まもなく斃死(へいし)するが、湧水(ゆうすい)が多い河川では越年するものもある。これが「越年(えつねん)アユ」で、伊豆半島の狩野 (かの)川は越年アユが多いことで名高い。淡水域と海水域とを往復する魚のなかでも、アユのように孵化後ただちに海へ下り、ついで淡水へ戻って成長して産卵する魚は、両側回遊型の魚類といわれる。 -
天然と養殖
現在、アユは養殖と、天然遡上と、稚魚を河川に放流して成育させるものとがある。養殖アユより天然アユのほうが、味や香りがよく喜ばれる。見た目は養殖の鮎は全体的に青黒いのに対し、天然の鮎は黄色っぽい。また天然の鮎は胸びれの近くに黄色い斑点があることも特徴で、この斑点は縄張り意識の強い個体ほどはっきりと表れる。他にも、天然アユは激流を泳いできているため背びれが大きく成長し、石に着いた藻を食べるためアゴが発達し、養殖のものよりも角ばった顔つきになる。
-
料理
味は天然鮎と養殖鮎では食べているエサが違うので、全く違う食味となります。天然の鮎は川底の石に付着した藻を食べており、川の豊潤な風味豊かな味がぎゅっと詰まった濃い味となります。養殖された鮎は配合飼料を食べているため香りも薄くなります。アユの料理は大きさにより異なる。幼魚はてんぷら、フライが適し、いちおうの大きさのものは塩焼きが適する。塩焼きは、表面を焦がさずに加熱するため、金串(かなぐし)のうねり打ちをする。成熟したアユは魚田(ぎょでん)、煮浸し、フライなどの料理法がある。また、アユの内臓は美味で、卵巣、精巣の塩辛をうるかといい、珍味である。
出典 日本大百科全書 ©Shogakukan Inc. -
四万十の鮎
四万十川の流域には湧き水が多く、支流以外の随所からも綺麗な水が供給されています。手つかずの山間から流れ込む湧き水は、多くのミネラル分を含んでいます。
ミネラル豊富で清浄な四万十川のコケを食べて育った鮎は雑味なく、自然の旨みと香りを含んでいます。鮎は「川を食べる」魚です。天然鮎はさまざまな川に生息していますが、天然だからと言って全ての鮎がおいしいとは限りません。やはり、川が豊かであり、その豊かさそのものを食べているからこそ四万十の天然鮎はおいしいのです。
そのなかでも、「日本最後の清流」と言われる四万十川でできるコケを食べて成長した鮎は、独特のコケの香りを発し、「さすが、四万十の天然の鮎です」と多くの皆様に好評を頂いております。